無題

 平成最後の夏が終わった。といっても、そこに何の感慨も無い。

 

 何故なら秋が好きだからだ。

 好きな季節は?と聞かれたら僕は迷わず「秋」と答える。

 

 まずは何といっても、その気候である。秋の気候は最高だ。

 夏は何をするにしても「暑い」という気持ちがつきまとい、目の前の物事にも集中しづらい(というのを言い訳にして、クーラーの効いた部屋に引きこもらなければならない)し、冬は服を着込めば寒さに耐えられるとはいえ身軽さがちょっと足りない。春は花粉が辛い。となると、この日本において極めてニュートラルな状態で生活できる季節というのは秋だけなのである。

 秋に比べたら他の季節なんてほとんど"気が狂った"ような状態だ。これは決して言い過ぎでは無い。半裸の身を衆目に晒しながら海水に浸したり、変な長い板を足に装着して雪山を登って降りるのを繰り返す状態がまともなわけない。冗談です。

 

 それとこれはとても個人的な話だけれど、秋に嫌な思い出というものがあまり無い。どちらかといえば良い思い出が多い。

 学校の文化祭なんかも秋だったから、学生時代の良い部分を振り返ろうとすると自然とその風景は秋だ。とはいえ、僕が通っていた大学は山奥にあったので、文化祭の時期になると夜などはほとんど冬のような寒さで、吐く息も真っ白だったけれど。

 院の1年生のときには、後夜祭が終わったあとこっそり学内に忍び込んで、警備員に見つからないようにしながらぎゅうぎゅうに狭いテントの中で誰が作ったのか分からないモツ鍋だかなんだかをみんなでつついたりした。展示はどうだったかとか誰が誰を好きとかそういう話をしながら、ほどよく火照った身体にキンキンに冷えた生ビールを流し込むのが最高に気持ち良かった。

 

 まぁ思い出話はこの辺りにするとして。秋の話だ。

 

 ファッションなんかも、夏みたいな半袖一辺倒じゃなくて、ジャケットにするかカーディガンにするかとか選択肢があって楽しい。色味も春や夏に比べるとグっと落ち着いたシックなものになる。女の子の服装も可愛い。 

 

 そしてとにかく、ご飯が美味しい。

 秋刀魚やきのこの類なんかはもちろん、狩猟が解禁されてジビエが食べられるのもありがたいし(特に鹿肉が好きです)、紫芋やかぼちゃを使ったデザートがレストランやコンビニに並ぶのも嬉しい。

 僕は甘いものは苦手だけど、こういう野菜の自然な甘みを生かしたものは大好物で、毎年秋になるとここぞとばかりに買い漁る。紅芋味のアイスぐらいなら定番化してくれても良いのにな、と思わないでも無い。

 あと巨峰。すごく好き。フルーツはだいたい好きだけど巨峰は特に好きだ。

 結婚相手に求める条件みたいなものってそんなに無いけど、強いていうなら一緒に美味しく巨峰を食べてくれる人がいい。

 まぁそういうことを考えるくらい巨峰、じゃなくて秋が好きです。

 

 音楽の面で考えれば、ジャズのスタンダードナンバー"Autumn Leaves"とアース・ウィンド&ファイヤーの"September"(といってもこれは12月の歌……)くらいしかパっと思いつかないけれど、まぁその2曲あれば他の季節とも十分に戦えるだろう。とても良い曲だから。

 

 というわけで、我々は"平成最後の夏"なんかより、"平成最後の秋"を楽しまなければならないのである。季節の食材を食し、服を買い漁り、祭りに参加しなくてはいけない。この収穫の季節を存分に謳歌すべきなのだ。それこそ、気が狂ったようにして。

 

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どうでもいいけど種ありの葡萄って人と食べるときちょっと困らない?

haji